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宮崎簡易裁判所 昭和36年(ハ)510号 判決 1962年2月27日

原告 佐々木吉治

被告 国

訴訟代理人 中村盛雄 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金七、四五〇円及びこれに対する昭和三六年一〇月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は訴外田中音治に対し金四五〇、〇〇〇円の債権を有していたところ、昭和三四年一一月四日同訴外人との間に別紙目録第一記載の有体動産(以下第一の物件という)を以て右債務を弁済すると其にこれを同訴外人に無償で使用させる旨の代物弁済並びに動産使用貸借契約を結び、同日その公正証書を作成し、同訴外人から右物件の引渡を受けて引続も同人にこれを使用させていた。

二、しかるに宮崎地方裁判所執行吏竹原茂一代理浜田岩美は訴外金益商会の委任を受け、同人の右田中に対する元利合計一、八七七、一八二円(一、八七七、一八三円とあるのは一、八七七、一八二円の誤記と認める。)の債権の強制執行として、昭和三六年七月六日右田中の自宅において、右第一の物件のうち別紙目録記載の有体動産(以下本件物件という。)の差押をしたので、立会人において本件物件は債務者のものではなく原告の所有である旨述べたのに、浜田執行吏代理はこれを無視してその差押を進行し、競売期日を同年七月一三日と指定した。

そこで原告は同月七日宮崎弁護士会所属弁護士岩切道男を訴訟代理人として、宮崎地庁裁判所に対し右差押の停止を求むると同時に、第三者異議の訴を提起したところ、同年八月一三日原告勝訴の判決を受け、右判決は控訴しなくて確定した。

三、ところで執行吏代理浜田岩美は、右強制執行に立会つた債務者田中の妻から一本件物件が原告の所有に属する旨告げられたのであるから、当然その手続を延期すべきであるのにこれをなさず、その手続を続行したのは執行吏としての職務義務に違反し、少なくとも過失がある。

原告は右の違法な執行を除去するため前述のような訴訟委任をなし、そのため前紙目録第三記載のような費用の支出を余儀なくされ、結局合計七、四五〇円の損害を被つた。

右損害は国の公権力の行使に当る浜田執行吏代理がその職務を行うについて生じたものであるから、原告は国家賠償法第一条の規定に基いて被告に対し、右金員とこれに対する訴状送達の翌日である昭和三六年一〇月七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四、被告主張の事実は争うと述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告主張の事実中

第一項の事実は認める。

第二項の事実のうち、本件差押執行の際立会人が本件物件が債務者のものでなく原告の所有である旨の陳述をしたことは否認するが、その余の事実はすべて認める。

第三項は争う。なお原告主張の損害金のうち訴訟費は訴訟費用額確定決定をまつて請求すべきものである。

二、浜田執行吏代理には原告主張のような過失はない。

執行吏は専ら外観上の占有の有無によつて差押をなすのであるから、強制執行の目的たる動産が外観上一見して第三者の所有に属することが明らかな場合は格別、本件のように第三者の所有に属するかどうか不明な状態で執行債務者たる訴外田中音治が本件物件を占有しているような場合は、たとえ債務者その他の第三者から右物件が第三者の所有に属する旨告げられたとしても、その主張に沿う証拠資料の提出がなく、亦これを認めるに足る特別の事情もない限り、執行吏としてはこれを差押えるのが相当である。したがつて、浜田執行吏代理のした本件物件の差押手続は適法であつて、原告主張のような過失はない。

証拠<省略>

理由

一、原告が訴外田中音治に対する金四五〇、〇〇〇円の債権につき、その主張の日その主張のような代物弁済並びに動産使用貸借契約の公正証書を作成し、即日同訴外人から第一の物件の引渡を受け引続きこれを同人に使用させていたところ、宮崎地方裁判所執行吏竹原茂一代理浜田岩美が、訴外金益商会の委任を受け同人の右田中に対する債権の強制執行として、昭和三六年七月六日右田中の自宅において、右第一の物件のうち本件物件の差押をなし、その競売期日を同年七月一三日と指定したこと、岩切弁護士が原告の委任により同月七日宮崎地方裁判所に対し右差押の停止を申請すると同時に、第三者異議の訴を提起したところ、原告勝訴の判決があつたことは当事者間に争いがない。

二、そこで浜田執行吏代理に原告主張のような過失があつたかどうかについて案ずる。

成立に争いのない甲第一、第二号証、乙第一号証に証人田中フミの証言の一部及び証人浜田岩美の証言を綜合すると、浜田執行吏代理は訴外金益商会の委任により、同人の訴外田中に対する債権の強制執行をするため右訴外人方に臨んだところ、同人は不在であつたので同人の妻田中フミを立会人として本件物件の差押をしたこと、その際同女は夫が他県に出張中であり、亦差押えられるような物件は何もないと述べただけで、別に本件物件が原告の所有であるとか、或は右物件にかき公正証書を作成してあるとかいうようなことは何等述べなかつたこと。

元々訴外田中は原木の売買を業とし、その傍ら自宅で木炭や薪等を時折り販売していたものであるところ、右差押当時同人の家には金目のものが殆んどなかつたので、浜田執行吏代理は差押を中止しようとしたが、債権者の希望により漸く本件物件の差押をしたものであり、本件物件として木炭、薪等の取扱商品のほかタンス、茶棚、丸飯台各一点だけで、その見積価格も八点全部で七、二〇〇円しかないものであること、一方原告と訴外田中との間に作成された公正証書記載の第一物件は四八品目約七〇〇点の多きにのぼり、その中には自転車二台、背広三揃七着、女物訪問着四着、木炭一五九俵、ラジオ、蓄音機等相当高価なものも含まれていたのに、本件差押当時は本件物件を除いては殆んど存在していなかつたこと、浜田執行代理人は昭和三五年九月から竹原執行吏の代理をしているが、執行に際し差押物件につき公正証書が作成してある旨申立てられその証書が提示されたような場合は、執行はすべきでない旨同執行吏から指導を受けていたが、今までかかる事例に遭遇したことはないこと、亦債務者等から単に差押物件が他人のものである旨申立てられた程度では、一応執行は実行するが、その申立の要請を必ず執行調書に記入するならわしであること、さらに浜田執行吏代理は本件執行を終るに当り、差押調書を作成し立会人田中フミにこれを読みきかせた上その内容の説明までしたが、同女は差押を不服として署名押印を拒絶したことが認められる。証人田中フミの証言中右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三、ところで執行吏が有体動産の差押をなす場合、債務者がその住居等において所持又は保管し、その物の通常の用法に従つてこれを使用している動産は、立会人等が公正証書その他これを認めるに足る文書等を提示してこれが第三者のものであることを明らかにした場合、或はその物の状況から一見して第三者のものであると識別し得る場合を除き、一応債務者の所有に属するものと認めるのが相当であり、執行吏としても右動産が債務者の所有に属するものと認められる以上これを差押えるべきである。

したがつて、前段認定のような状況の下において、債務者の占有している本件物件をその所有に属するものと認めて差押を執行した浜田執行吏代理の執行方法は相当であつて、原告主張のような過失があつたとは認め難いので、たとえ原告において本件物件の差押によりその主張のような損書を被つたとしても、被告においてこれが賠償の責に任ずる必要のないことは明らかである。

よつて原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 徳松巌)

目録<省略>

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